名作とはなぜ『名作』なのか・おすすめ名作アニメ『火垂るの墓』

 

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まさに『智恵あるものは挑むが良い』という

言葉にふさわしい名作である。

 

この話は実にわかりづらい!

観客に全く優しくないのだ

 

 

  ☆今回は最初から最後までほぼネタバレなので

         アニメを見てからのほうがいいかもです。

 

私は子供の頃この話を見て『???』と言う感じで終わった。

何しろ何も起こらないのだ

 

子供の頃なのでミサイルが落ちるとかそんなことを不謹慎にも期待する。

しかし何も起こらない。

何これ…?』と思ったものだ

大人になってから見直したもののほぼ同じ感想になった。

 

しかし、気合いの入った話であることはどのシーンを見てもわかる。

わざわざ『蛍』を『火垂る』と

表現しているのを見てもわかる。

 

『いや、これはすごい話に違いない』と思いなおして

もう一度見ると『ああ!そうか!』と思った。

 

あと実写映画を見たことも大きかった。

アニメを見てよくわかんないと思った人は

実写映画を見るといい。

まるでアニメの解説動画を見ているようだ。

 

ただし実写のほうは同じテーマを扱った、もう違う話とでも

いうようなものになっている。

 

悪役が振られている松坂慶子演じるおばさんが良い役をやっている。

彼女は「これが戦争なのよ。

戦争ってこういうことなのよ。」と言う。

このセリフはアニメにはない。

アニメだけを見て

『これが戦争と言うものか』とはあまり思う人はいないだろう。

 

 

おばさんはこの兄妹にご飯を極端に少なく与える。

このおばさんにとって

家族でもないこの兄妹は邪魔者だ。

はっきりいって出て行って欲しいのだ。

そこでこの兄妹は出て行く。

そして死んでしまうのである。

 

しかしここで実写版とアニメの違い、

そしてアニメの断然優れているところはこのおばさんはほとんど活躍していない。

 

このおばさんの悪役をやっているのは

この主人公の兄なのである。

これがこの話の最重要ポイントである。

ここをずらしてしまった時点でもう違うものとして私の目には映る。

 

妹の節子を死に至らしめたのはこの兄なのである。

一見、全くそうは見えない。

 

兄の清太は節子のために懸命に頑張っているように見える。

そしてそれは決して嘘ではない。

 

だからこそ節子のためにがんばることを

放棄してしまいたいのだ。

 

  本当に節子の為を思うならなぜ彼は

おばさんに頼み込んで

もう一度一緒に住まわせてくれと言わないのか。

なぜ金を持っているのにそれを使って節子にまともな食べ物を買ってやらないのか

 

 

ここにあるのは強者が弱者を踏み台にして

自分が生き延びるというこの話のテーマである。

 

これが戦争なのよ。戦争ってこういうことなのよ。」

そういうおばさんの実写版にはあるがアニメにはない

この話の核心をズバリ表したセリフである。

 

 こういうセリフが全くないまま、

アニメには妹のために献身的に尽くす兄、清太の姿が

映るばかりである。

 

しかしその行動は見れば見るほど怪しげである。

彼は貯金があるのに盗みをする。

節子が病気になっているのに食べ物を買おうとしない。

 

しかしこの話は『智恵あるものは挑むがよい』といわんばかりに

清太の行動を説明するところは一切ない!

観客は見ながら想像するしかないのである。

 

果たして彼は本当に妹に尽くす献身的な兄だったのか

それとも実は妹が邪魔で早く死んで欲しかったのか。

 

正解は両方と言いたいところだが、

やはり後者よりの両方なのだ。

つまり彼は節子にはもちろん生きていてほしいと思ってはいたが

自分の命をかけてまでと思っていたかどうか

それは違うと物語を見ていて思わざるを得ないのだ。

 

彼は妹の節子よりも父の方が大事なのである。

アニメだけを見てここを理解するのは難しいだろう。

父は軍人であり『お国のため』に戦争に行き、そして帰らぬ人となる

 

 この行動は当時ならばいかにも正しい姿かもしれないが

今の時代の1個人として見るならば実に無責任な態度にも見える。

 

父親として戦地になど赴かず、守るべき家族を

残って守るべきではなかったろうか。

 

父はより強いものに従い、結果として

自分よりも弱い立場の家族を全て

死なせることになるのである。

 

これは清太の行動と全く同じである。

彼は嫌でもおばさんに一緒に住まわせてくれと

頼み込み、節子の命をなんとしても守るべきではなかったろうか。

 

子供2人だけで生きていくという、

できもしないことに手を出し、

しかも途中で止めようとせず、

結果、最悪の事態を招く。

 

これはかつての日本の姿でもある。

勝てもしない戦争をやりだし途中で止めるに止められず

1億総玉砕という正気とは思えぬ状態で多くの犠牲者を

出すという最悪の事態。

 

守るためと言うならばそれはまさに国民を、家族を守ることのはず。

しかし何故か全く逆の方向に進んでいく。

 

『お国』というより強いものに従い、

結果的により弱いものを犠牲にしていく。

「戦争ってこういうことなのよ」と言うまさにそういうことなのだ。

 

アニメ版の方が実写版より見るべきなのは

兄がまさに両方の立場にいることだ。

彼自身子供であり、まだまだ親の庇護が

必要な年頃である。

 

しかし父が戦地にいるために

自分が父親代わりとなり母と妹の面倒を見なければならない。

 

しかし、そうこうするうちに母は死んでしまい

徐々に自分の手にはおえそうもないと痛感し始める。

 

そこで観客は不思議に思うだろう。

なぜ清太は考え方を改めないのか、と。

 

しかしそれならばなぜ第二次大戦中の日本は考えを改めなかったのか。

負けると確実にわかっている戦いの中でおびただしい犠牲者を出しながら

なぜすぐアメリカに降参しなかったのか。

 

清太にとって自分の父ははヒーローだったのだ。

彼は父を信じていた。そして父はお国を信じていた。

その正しさを信じ、そのために戦うべきだと信じていた。

 

しかし戦いとはそのようなものではなく、

強いものが生き延びるために

弱いものを殺すことだったのだ。

それがあの「戦争ってこういうことなのよ」と

言うセリフである。

 

しかし自分の父が戦死したことを知ったときに

ついに清太は全てが終わったと感じる。

 

泣きながら走っていく彼の頭上を飛ぶ戦闘機は

自分の信じる父を殺した敵であり

今となっては最も強い存在である。

 

それに怯え逃げ惑う。もはや自分が信じていたことが全て

崩れさり、何者が君臨しているかを知る。

 

そして家に帰り食事の支度をしている間に節子は死ぬ。

 

彼女は兄の清太を信じている。

清太が父を信じ、父がお国を信じたように。

 

そして精神が錯乱し、あらぬことをしゃべりながら

ついに弱り果て、衰弱死する。

 

そんな時にも彼女の口から出る言葉は

兄ちゃんおおきに」

という兄への感謝の言葉である。

 

弱い者は強いものを最後まで信じている。

節子が兄の清太を信じ、兄が父を信じ、父がお国を信じたように。

 

しかしそこにあるのはそんな純粋な思いを

自分が生き延びるために

利用したという残酷な真実があるばかりである。

 

節子が、死んだ蛍の墓を作って、

蛍を穴の中に入れるシーンには

死んでしまった人間をどんどん穴の中に放り込むシーンが

一緒に現れる。

 

蛍も人間も同じなのだ。

 

用済みになった弱者は犠牲者はドンドンと穴に

放り込まれる。

そんな風に扱われる命ではなかったはずなのに。

 

 美しく希望に輝くホタルのような生は、ほんのつかの間の間だけ…。

 

そして兄の清太は妹の節子を穴の中で焼き終わると

二度とそこには戻らない。

 

彼は生き延びたのかそれとも死んだのか

それを見ている側にはよくわからない。

 

冒頭で死んでしまったことが暗示されてはいる。

しかし、よくはわからないまま終わる。

 

全てが終わり、歩き出した清太の姿は

新しいところに向かう少年のようにも見える。

ラストシーンはそのように見える。

 

しかし冒頭のシーンで彼は全てに絶望して

ただ死を待つだけのようにも見える。

実写では清太はラストで死ぬ。

 

しかしアニメではわからない。

彼は節子を犠牲にして生き延びたようにも見えるし、

絶望して死を待つだけになったようにも見える。

 

実写版では死んだことになっている。

実写版ではとにかくキャラが全ていい人である。

悪役を振られているおばさんでも『まぁしょうがないよね』と

いう共感できるキャラになっている。

 

アニメ版の火垂るの墓はずっと惨い。

最も仲の良いはずの兄妹でも

相手の死を望むような話になっているのである。

 

そしてこのどちらかわからない、

本当はどうだったのかわからないアニメの方が

あまりにもいろいろな

想像を掻き立てられるため

より感慨深イイ話になっていると言える。

 

 

 

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まあ、個人的に私は「結局、コイツは生き延びたんだな…。」

と思ってしまったけれど。

 

だってこいつ、妹の節子を焼いている横でメシ食ってんだぜ。

『いや、清太、さすがにそれはないわー』と思った。

 

こんなことをする奴が死ぬわけないと思ってしまう。